
描くことの途中にあるもの
絵を描いているとき、いつも思うことがあります。
完成したかたちを目指すことだけが、大事なのではない。
描いているその時間そのものが、すでに作品になっている気がするのです。
でも実際には、スムーズに描けることばかりではありません。
うまくいかない日もあるし、途中で手が止まってしまうこともある。
何度も塗っては消し、また塗り直して──それでも納得がいかず、立ち尽くすこともあります。
そんなふうに迷いながらも、手を動かしていると、
あえて残った線、描きかけのディテール、何度も往復して塗り重ねた色の面が現れてくる。
それらは、計算してできたわけではなくて、ただ描き続けていた時間のなかで自然に生まれてきたもの。
でも、そうした部分にこそ、自分がにじみ出ているように感じるのです。
ときに苦しく、ときにふと軽くなったりもしながら、
描いているプロセスそのものが、いつのまにか絵の中に積み重なっていく。
描画対象そのものだけでなく、描いている最中の揺れや迷いも含めて、
わたしにとっては、どれもかけがえのない要素です。
意図しても再現できないような、少しの揺らぎや偶然の重なり。
それが絵の中に残ってくれることを、どこかで願っているのかもしれません。